アトピー性皮膚炎で一番辛いのは、『痒い』ことです。もちろん発赤、熱感、腫脹、滲出液、肥厚などの皮膚症状がありますが、痒みがとても辛い。痒くて痒くて痛いほうがどれだけましか、すぐにでもこの痒みをなんとかしてほしい。1ヵ所だけの痒みだけならまだ我慢もできますが、『風』のように痒みがあっちもこっちも発生して、もう本当にイライラ、ワァーとなって無茶苦茶にかきむしってしまいたいくらいです。
ある時なんかは、ものすごく痒いところをドライヤーの熱風を当てたら、気の遠くなるような気持ち良さで、痒さも吹っ飛んでしまって、気持ちがよくてもっともっとと思ってドライヤーを当て続けましたら、やり過ぎて火傷をしてしまいました。これ、私が鍼灸師になるまえの話です。もし我慢ができなくなったら、患部を手でかざしながらドライヤー当てると、火傷の心配もなく目先の痒みもなくなります。しかし、またすぐに症状は戻りますが…。
アトピー性皮膚炎の『搔痒』を取り除こうと思いましたら〔刺絡〕が即効性があります。それをする度に痒みが非常に楽になっていくのが実感できます。根本治療のほうは刺絡+鍼灸、そしてできることなら漢方薬併用。そして患者様自身の体質改善治療となりますが、これが一番難しい!のが現実です。小児に対しては「小児はり」中心の治療となりますが、どうしても我慢できない『痒み』に対しては、限定的にそして慎重に刺絡を行うことがあります。通常よりも軽めの施術を心がけるようにしております。
痒み』を無くすには、経脈に滞った「」を動かすのが最良ですが、これがなかなか難しい。駆瘀血穴に鍼をしても、自覚的にすぐには『痒み』は収まってくれません。川底に溜まったヘドロを一気に洗い流し、新鮮な「血」を呼び込む〔刺絡〕治療が最善な方法だと思います。一気に澱んだ「古血」を除去してしまうのですから、刺絡をする度に『痒み』もだんだんと軽減し、正常な皮膚の再生も期待できるようになります。また少しずつ肌のしっとり感が実感できるようになります。
では、どんな器具でどのようにして『』の流れを良くしようとするのでしょうか?下記の写真は〔刺絡〕に使う器具です。
 
バネ式三稜鍼吸角(吸玉)吸角を陰圧にする吸引器
 
三稜鍼を皮膚に垂直に立て、三稜鍼の頭部を叩打することで瘀血を出し、さらに吸引器の管につなげた吸角を陰圧にすることで、瘀血を吸い出して症状を改善しようとする治療法です。意外にもまったくの『無痛』です。
 
    滞った「古血」を吸引中。
    吸引終了。

暗赤の痕は2日~5日程度で消失。
 
 
アトピー皮膚炎は主に「瘀血」が症状を増悪させ、それが皮膚の再生を妨げていますので、最初は「瘀血」除去中心の治療になっていますが、初回から『痒み』のほうはぐ〜んと楽になり、回を重ねる毎に、その症状からのストレスも開放されるでしょう。また『痒み』が原因の不眠も解消されて、体力も出てくるんじゃないかと思います。しかし、皮膚の再生はすぐとは行かず、日数を要します。1ヶ月から3ヵ月ぐらいかかるのではないかと思われます。

 また体のあっちこっちに発疹が生じれば、そのつど吸角で刺絡すれば大体痒みが収まってきますが、前頸部では<完骨穴>から<人迎穴>までのあご下の掻痒部分と、<完骨穴>下方辺りの皮膚刺絡、顔面対しては場所が場所だけに吸角の使用はできませんので、耳を縦に折ったその頂点<耳尖穴>と、眉と外眼角との中点にある<太陽穴>への搾り出し刺絡が良い結果が出ており、顔面およびその周辺の痒みが早く除去できるようです。  
          
 アトピー性皮膚炎の根本原因は『瘀血』である、とは高知の西田皓一先生がおっしゃられている事です。皮膚の瘀血(微小循環障害)が皮膚の異常の回復を妨げているので、刺絡+鍼灸治療によって、皮膚に澱んでいる古血を除去し、新しい血液を循環させることにより、皮膚の血流異常を回復し、治癒機転を改善できる、と述べておられます。そのとおりだと私も思います。鍼灸だけで『瘀血』を取り除くことはなかなか・・・・です。

 アトピー性皮膚炎の方たちの体の状態は、熱と冷えとが夾雑しており、上下の気血津液の交流が余りできておりません。腹部を触診してみると、腹部全体が非常に硬く、下腹部を軽く押圧すると、痛さのため悲鳴をあげるくらいです。交流ができていない証拠です。仰臥位では十二分に鍼灸による腹部への施術治療をしなければなりません。
 
 また外邪に対してもアトピーの皆さんは皮膚のバリアーが非常に弱く、体が虚の状態ですので、根本治療としては「肺虚証」を中心として「脾経」「腎経」そして「肝経」の経穴を使う事となります。刺絡だけでなく鍼灸との併用治療になります。
 面談のとき、私はアトピーの方たちに最初こう申し上げます、「刺絡と鍼灸でアトピー症状を半分程度は軽減できます、後の半分はご自分で治して下さいね」と。相手の方は、え!?と怪訝な顔をなさいます。痒みと皮膚の状態はなんとか鍼灸で改善できますが、後の半分の根本治療は、自分自身で筋力運動による自己改造を行ってほしいのです。
 
 人の身体は約60兆の細胞で成立しているといわれております。そのうちの何パーセントの不健全な細胞があるから病気になるのだ、と私は考えております。大雑把だとはわかっておりますが、基本的には間違っていないと思っています。ストレスのかからない運動をすることで新陳代謝を促し、不健全な細胞から健全なもへと変えていただきたいのです。
 
 アトピーの方たちは余り汗をかきません。東洋医学的には、腠理の開闔うまく働かず汗が出にくい状態なのです。だから皮膚の下に熱が発散できずに籠ってしまって痒くなるのです。
 
 皆さんは、運動をするととても痒くなって皮膚にブツブツができたりして、運動はどうも…とおっしゃいます。私も最初から運動を勧めは致しません。半年後か一年後かはわかりませんが、状態が改善できているとご本人が自覚でき意欲が出てきましたなら、運動療法へと行動に移してほしいのです。それをすることで一時症状がまた増悪することもあるかもしれませんが、その時はその都度、刺絡・鍼灸で対処すればよいことです。当然、ステロイドの使用回数も激減しているだろうし、施術回数も①回/週から①回/2週へと減っているでしょう。将来は鍼から運動療法が中心になっていけば…鍼も月に①回のペースになればよいと思っています。
 
 では、どんな運動がよいのでしょうか?単純な繰り返し運動(例 早歩きorジョギング)が良いと思います。あまりストレスのかかるスポーツはお勧めできません。単純な繰り返しのほうがストレスがなく、肉体に非常に良い影響を与えると思うからです。
 運動をすると汗をかきます。最初はベタベタした汗ですが、根気良く運動を持続していきますと、そのうちにサラーとした汗に変化していきます。
 アトピー性皮膚炎を治すのは、あなた自身です。